経験

例えばインスタントコーヒーを飲む際など,母親は,計量カップなどで測ることなく,必要最小限の量の湯を沸かす.注いだ後に,確かに必要最小限の量だった事を見届けた時,例えば 11 時 11 分 11 秒といった時刻をデジタル時計で偶発的に見た時に似た心持ちになるようで,「水を入れたヤカンを手に持てば,重さでだいたい分かる」 と,少し得意げに言う.そんな母親を見るたびに,俺は微笑みとも苦笑いとも愛想笑いとも言える表情を顔に浮かべながら,内心では「ちょっと凄いかも」と思っていた.

まだ経済的自立を成していない,表面上の一人暮らしを始めて 早 10 ヶ月.食費を浮かせるためとはいえ,即席味噌汁・インスタントコーヒーを飲むことの多い,なんとも貧相な食生活を続ける俺も,母親が持つそのスキルを習得したようだ.「アレは別に大した事じゃなかったんだな」 と思う一方で,アレはガス代・水道代すらケチっているとも取れる行為であり,その視点から考えれば,「俺はそのケチっぷりも継承していることになるんだろうな」 と思った.